うめだファティリティークリニック

培養士の山本です

 

 

不妊治療の保険診療が検討されだしたころから

胚培養士の国家資格化の話題が随所で見られるようになったように思います

今日はその件について触れてみたいと思います

 

胚培養士の資格の現状としては

学会の認定資格が2種類

生殖補助医療胚培養士と臨床エンブリオロジスト

それぞれ異なった資格を異なった学会が認定しています

 国家資格ではないので民間資格となります

 

 

看護師資格がない人が看護師業務を行うと保健師助産師看護師法(昭和 23 年法律第 203 号)

第5条違反となります(罰則もあります)

しかし胚培養士は国家資格として認められていないので

学会の認定資格がないと法的に胚操作ができないというわけではありません

不妊治療施設などに雇われ胚を管理操作する仕事をしていれば

その人はその施設の胚培養士と言えます

資格のあるなしはこの時関係はありませんし

無資格でも法的には全く問題ありません

 

 

 

 

胚培養士の国家資格化について

一見聞こえはいいですが

賛成・反対などの明確な判断は個人的には今のところありません

実際に国家資格になった時のメリット・デメリットの情報が

少ないといいますか、ほぼ入ってこないので

何とも言えないというのが実際のところです

 

 

胚培養士の国家資格化の議論において

胚培養士の地位確立についてよく言われていますが

私自身としてはその点胚培養士が軽んじられている実感が特にないという点と

国家資格でも職種や職場によっては軽んじられている人もいると思うので

国家資格が地位確立の一助にはなるとは思いますが

国家資格化=地位確立 の担保にはなりえないようにも思います

この点に関してはそもそも「地位確立」の定義が気になるところですが

この点にまで話を掘り進めると長くなりそうですので割愛します

 

大きな病院の胚培養士が給与面で冷遇されるケースがあるとは聞きます

もし地位確立を単純に給与での評価と考えた場合

その点は国家資格化することで一定の改善がみられるかもしれません

しかし、国家資格化することでどこまでそこの給与規定に影響力を与えられるかは

職場ごとに議論が繰り広げられる事と思いますので

実現するまでには多くの時間と労力が必要と思われます

国立病院の場合は

独立行政法人国立病院機構職員給与規程に胚培養士の項が追加されると思いますが

給与が如何ほどになるかはわかりません

 

 

国家資格になることで技術の標準化につながるとの意見も拝見しましたが

国家資格に厳しい技術審査を設けなければその点はクリアできず

厳しすぎると成り手不足になるというジレンマがあるように思います

(そもそも、現在国家資格化されている資格保有者が技術の標準化がされているとも思えない)

 

少し話は逸れますが

より良い培養士を増やすのであれば

現場レベルでメンター(指導者・助言者)を育て上げるシステムが必要だと思います

培養士に限らずどこの業界でも教育と言えば新人にするものですが

私としてはベテラン培養士をメンターにする(後進を築く)教養を

身に着けるのも同じくらい大事なように思います

優れた技術を持つ培養士=優れたメンターになれる というわけではないので

熟練培養士であっても技術の教え方がうまいとは限りません

意外と若手培養士の方が新人とコミュニケーションがうまくとれたりもします

メンターを育てるには具体的に何をすればいいのか

例えば、アンガーマネジメント・ノンテクニカルスキル・ハラスメントに対する正しい知識などを

学ぶ機会を与えるだけでも違ってくると思います

もちろん経費と時間はかかりますが

何百万円と人件費をかけて雇い育てる新人が辞めてしまうリスクを考えると

やはり大事な事なのではないか、と思います

(あくまで個人的意見です)

 

 

さて、資格の話に戻ります

雇用の観点から見た場合

国家資格化すれば今のようにクリニック基準での採用はできないと思います

胚培養士募集=有資格者 が基本となり

国家資格保有者でなければ雇うことはできなくなるのではないでしょうか

地方のクリニックが胚培養士を確保できるかが死活問題化する可能性がなければよいですが

気になるところではあります

 上記の点は資格の制度にもよると思います

現在のように実地で経験を積みながら取得するのではなく

就業前に大学や専門学校などで資格を取ってから

就業するものなのであれば、の話です

 

 

ここまで書くと国家資格反対派のように取られるかもしれませんが

個人としてはあくまでニュートラルな立ち位置です

(私一人どちらに動いたところでどうにかなる問題ではありませんが…)

国家資格となることで患者さんが安心を得ることもできますし

培養士としても自信と資格者としての自覚が生まれると思いますので

数値化できないとはいえその点は利点であると思います

ただ、もしも賛否を表明するのであれば

上記をはじめある程度メリット・デメリットを明確にしたうえで

判断したいところではありますね

 

胚培養士の国家資格化については何年も前から議論されていますが

ここに来て聞く機会が増えてきたので

今後この機会に変化が起こるのかどうかにも注目したいです