うめだファティリティークリニック
培養士の山本です
ここ最近胚盤胞の部位のグレードによって
生まれてくる児の性別に傾向があるという報告があるようです
かなり新しいと言いますか、今まであんまりなかった切り口の報告だと思います
内容としては
内部細胞塊:以下ICM (1番目のアルファベットのグレード)が良好だと女児が
栄養外胚葉:以下TE(2番目のアルファベットのグレード)が良好だと男児が
産まれる傾向があるという内容です
例えば4ABだと女児の可能性が高く
4BAだと男児の可能性は高くなるというものですね
まずは前提として
最初に私の立ち位置を明確にしておきたいのですが
発表や報告一つ一つの整合性に関して言及できる立場ではありません
データの詳細をすべて把握しているわけではありませんし
具体的に肯定も否定も出来ません
ニュートラルな立場です
もし今後様々な施設から同じデータが出てくれば
それが業界全体のコンセンサスになっていくと思います
当院のブログで新しい知見の個別の発表に関して触れることは稀なのですが
患者様よりこの内容について聞かれる事が先日あったので
今回取り上げようと思います
当院のグレード別女児男児の差は出せなくはないのですが
時間がかかるので今のところ上記の傾向が当院でも当てはまっているかは判明しておりません
次に、あくまで一培養士としての私の個人的な意見としまして
そもそも論としてグレードは多くの場合「主観」です
多くの施設で採用され当院でも使用しているガードナー分類は
ICMが大きい・小さい・非常に小さい
TEが多い・少ない・非常に少ない
くらいの大別です
もちろん胚培養士としての経験をもとに出していますが
クリニックによっても評価が変わってきますし
培養士間で多少の差が出てくる場合もあると思います
AをCと付けたりすることはほぼないと思いますが
AとB、BとCの差は出ると思います
例えば太郎さんが4ABと付けた胚を
次郎さんに見せてグレードをつけてもらったら4AAと付けた
ということが起こる、ということです
その同じ胚を100人にグレードをつけてもらって
50人が4AB残りの50人が4AAと付けたら
正解はどちらでしょうか?
私はグレードに絶対的な正解はないと思います
(ガードナーさんの評価が正解かもしれませんが日常業務としては現実的ではない)
AとB、BとCの間くらいの細胞量であれば、それこそ培養士間でも意見は分かれると思います
前置きが長くなりましたが
つまりどのグレードで性別がどうなるかと言う議論の前に
そもそも評価がぶれやすく
ICMとTEのどちらが高評価であるかの比較も困難ではないかと思います
ここまで書くと冒頭の報告に反対意見を言っているようにも見えるかもしれませんが
決してグレードによって性別に差が出る事に否定的なのではなく
多くの場合グレード自体がぶれやすいと申しております
グレードを今の評価方法ではなく
より客観的で正確なグレードをつけている場合は信ぴょう性が高いと思います
具体的にはICMの大きさを測り
TEの数を数えて評価しているようなクリニックです
それも複数人で複数回、です
しかしこの方法は胚評価に非常に時間がかかるので
業界全体でやっている施設さんは多くはないと思います
少なくとも当院ではやっておりません
ではグレードになんて意味がないとかというと
それはさすがに極論であり
細胞の多い少ないで妊娠率の傾向は見えますし
グレーディング自体に意味はあると思います
当院でもグレーディングに迷う場合は複数人で決めます
性別と言う大きなファクターを判別するには
今までの多くある判定方法では誤差が生じやすいのではないか
と、感じております
患者さん目線で考えますと
「そのような傾向があるという話が出ている」程度で目安にされるのはいいかもしれませんが
過度な期待は禁物だと思います
移植胚に関してご希望があれば
診察時にお申し出頂き医師の承諾があればご希望に添える場合もあります
当院では培養士がつけたグレードをもとに
基本的には最も妊娠率が高い胚から順に移植する事となります